
自動車がソフトウェア定義型プラットフォーム(SDV)へと進化するにつれ、サイバーセキュリティは単なる技術的な保護手段から、事業のレジリエンスを支える柱へと位置づけが変わってきました。ゼロデイ脆弱性はもはや限定的なエンジニアリングの課題ではありません。それは生産スケジュール、法規制への準拠、そして長期的なブランド信頼を揺るがし兼ねない潜在的な事業リスクを意味します。
2026年1月21日から23日まで東京で開催されるPwn2Own Automotiveは、現実世界で悪用される「前」に、重大な脆弱性を特定するという唯一無二の目的を掲げています。これにより、自動車業界に対して、台頭するサイバーリスクを早期かつ信頼できる形で可視化するという極めて貴重な価値を提供します。
ゼロデイ脆弱性:早期発見が不可欠なSDVの事業リスク
ゼロデイ脆弱性が危険なのは、その存在自体ではなく、それが「未知」であるためです。ひとたび攻撃者に悪用されれば、組織は生産遅延、緊急パッチ対応、規制当局による監視、そしてレピュテーションの低下といった、多大なプレッシャーの下での事後対応を余儀なくされます。
Pwn2Own Automotiveは、こうしたリスクを早期に表面化させるための、安全かつ厳格な検証環境を提供します。世界トップクラスのリサーチャーを招致し、実際の攻撃者と同等の創造性と執拗さで、車載OS、IVI、スマートコックピットプラットフォーム、EV充電インフラといった実機を検証します。その結果は、理論上のモデリングではなく、現実に即した検証済みの攻撃経路として提示されます。
脆弱性の発見から修正へ:責任ある開示プロセスの実現
Pwn2Own Automotiveが他のコンテストと一線を画すのは、「発見は出発点に過ぎない」という点にあります。
VicOneとTrend Micro Zero Day Initiative(ZDI)が共同開催する本イベントは、「協調的な情報開示」の枠組みで運営されています。脆弱性は一定期間機密として保持され、ベンダーやエコシステムパートナーが修正プログラムを開発・テスト・展開するための十分な時間が提供されます。
この実効性のあるフォローアップは、以下の実績に裏打ちされています。
- 2024年に特定されたゼロデイ脆弱性の59.62%が既に修正済み
- 2025年に特定された脆弱性の59.62%にパッチが適用済み
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図1. 発見された多くの脆弱性がベンダーによって迅速に対処され、Pwn2Own Automotiveが責任ある開示と確実なリスク低減を加速させている状況
自動車メーカーがPwn2Ownに参加すべき理由
SDVへの変革を進める組織にとって、Pwn2Own Automotiveは従来のテスト手法では得られない価値を提供します。
- 体系的リスクの早期可視化:収益や納期に影響が出る前にリスクを特定
- エビデンスに基づく優先順位付け:セキュリティ投資と修正対応の最適化
- グローバルな規制との整合性強化:UN-R155等の国際基準への対応を支援
- 生産直前のセキュリティ懸念の払拭:量産や認証プロセスにおける「想定外」の回避
要約すれば、本イベントは場当たり的な危機管理ではなく、十分な情報に基づいた戦略的意思決定を支援します。
サイバー攻撃の最前線から得られた教訓:車載システムとEV充電インフラの課題
開始以来、Pwn2Own Automotiveは車載システムからEV充電インフラに至るまで、98件の固有なゼロデイ脆弱性を発見してきました。これらは単なる例外的な事例ではなく、些細な欠陥が連鎖することでいかに深刻な攻撃チェーンへと発展し得るかを証明しています。
主な実績は以下の通りです。
- Pioneer製IVIシステムにおけるマルチバグ攻撃チェーン(2024年):リモートコード実行(RCE)と永続的なスパイウェア設置を可能にする脆弱性(CVE-2024-23928, CVE-2024-23929, CVE-2024-23930)
- Alpine Halo9プラットフォームにおけるゼロクリックBluetooth脆弱性(CVE-2024-23923):独自プロトコルの設計上の弱点を露呈
- EV充電コントローラーにおける複数のRCE脆弱性(CVE-2024-25994, CVE-2024-25995):Phoenix Contact CHARX SEC-3100を含む(2025年)
- ロジックレベルの検証不備(CVE-2025-8321):Tesla Wall Connector充電器の制御を奪取
これらの事例はすべて同じ教訓を示しています。すなわち、「悪用されるまで待つ」という選択肢はもはや存在しないということです。
SDVセキュリティの現状:コンプライアンスを超えた検証の必要性
現代の車両は、IVI、コネクティビティ、OTAアップデート、バッテリー管理、さらには安全性に直結する機能まで、ソフトウェアに依存しています。この攻撃対象領域の拡大により、SDVが世界規模で普及する中で、攻撃者視点での継続的な検証が不可欠となっています。
過去に発見された脆弱性の多くは、高度なセキュリティツールと専門的なリサーチを組み合わせて初めて検出可能なものでした。これは、従来のテスト手法やコンプライアンス準拠のみを目的としたアプローチには限界があることを明確に示しています。
競技から実務の力へ:レジリエンスの構築
Pwn2Own Automotiveはその技術的な華々しさが注目されがちですが、真の価値は別のところにあります。それは、ゼロデイ研究を「活用可能なインテリジェンス」へと変換し、エコシステム全体の連携を強め、組織がリスクを甘受するのではなく予測することを可能にする点です。
ソフトウェアが車両の機能、差別化、そして信頼を定義する時代において、Pwn2Own Automotive 2026は重要な戦略的チェックポイントとして機能します。VicOneは、自動車業界が確信と明確なビジョン、そして強固なレジリエンスを持って前進できるよう支援を続けてまいります。