シングルSTM32ボードを使用したRAMNの再現

2025年5月26日
CyberThreat Research Lab
シングルSTM32ボードを使用したRAMNの再現

By Florengen Arvin Parulan (Automotive Researcher)

現代の自動車が機械的な乗り物からインテリジェントなコネクテッドシステムへと移行するなか、これらのイノベーションの基盤となるのは堅牢なインビークル・ネットワークにあります。レジスタント・オートモーティブ・ミニチュア・ネットワーク(RAMN)は、あらゆる電子制御ユニット(ECU)、センサー、デジタルコンポーネント間の信頼性の高い通信を、過酷な条件下でも保証するように設計された最先端のソリューションです。しかし、本格的なRAMNセッティングの実験は、初期の開発段階ではコストがかかりすぎたり、過度に複雑になる可能性があります。そこで、1枚のSTM32ボード上でRAMNを再現することが、学習とプロトタイピングのための貴重な実践的アプローチとなります。

このブログ記事では、手頃な価格で汎用性の高いSTM32ボードを使用して、RAMNの主要な機能を再現するシンプルながら強力なプロトタイプを作成する手順を説明します。自動車エンジニア、趣味で電子工作を行う方、または自動車アプリケーションにおける高度なネットワーク技術に興味のある方など、どなたでもこのガイドを読めば、STM32プラットフォームを活用してRAMNの主要な機能を再現する方法を理解することができるでしょう。

さらに、STM32ボードを1つだけ使用することで、調査の一貫性を保ち集中することができます。この単一で安定したプラットフォームにより、成功や課題はハードウェアのバリエーションではなく、コンセプトに直接結びつきます。この合理的なアプローチは、トラブルシューティングを簡素化し、開発を最適化し、より広範な実装に先立ち、スケーラブルで再現性のある基盤が確立されます。

RAMN とその重要性

RAMNは特に自動車環境向けに設計されています。車内のあらゆるECU、センサー、デジタルコンポーネント間のスムーズな通信を保証します。エラーや信号ロスが発生しやすい従来のワイヤーハーネスとは対照的に、RAMNは、かさばる接続部を洗練されたモジュール設計に置き換えています。この革新的なアーキテクチャは、極端な温度、高振動、絶え間ない電磁干渉などの過酷な条件にも耐えるよう設計されており、信頼性の高いパフォーマンスとサイバーセキュリティの向上の両方を実現しています。

なぜ単一のSTM32ボードを使用するのでしょうか?

STM32ボード1枚でRAMNのような高度な車載ネットワークを再現することは、プロトタイピングや実験に実践的で手ごろなソリューションを提供します。以下はその理由です。

  • 費用対効果の高いプロトタイピング:STM32ボードはコンパクトで価格も手頃で、広く入手可能であるため、フルスケールのシステムに高額な費用をかけることなく、初期段階の開発に最適な選択肢といえます。
  • 周辺機器との接続環境をシミュレート:CANインターフェースや複数のシリアル通信オプション(例:UART、SPI、I2Cなど)の内蔵機能により、STM32プラットフォームは、さまざまなネットワークノードと通信を効率的にシミュレートでき、完全なRAMN構成を忠実に再現できます。
  • 迅速な開発:STM32CubeIDEなどのツール、豊富なライブラリ、コミュニティサポートなど、STM32を取り巻く充実したエコシステムは、開発プロセスを効率化します。これにより、設計の迅速なテスト、デバッグ、改良が可能になります。
  • 実験の柔軟性:1枚のSTM32ボードで、データルーティング、エラー処理、セキュア通信プロトコルなど、インビークル・ネットワーキングの主要コンセプトを探求するための管理しやすい環境を提供し、将来のプロジェクトでさらなる拡張と改良を行う道を開きます。

STM32ボードを活用することで、エンジニア、研究者およびプロフェッショナル開発者は、車載通信ネットワークの基礎原理に関する貴重な見識を得ることができ、将来のより複雑な車載グレードの実装に活かせる基盤を習得することができます。

RAMNボードの概要

再現プロセスに入る前に、RAMN の特徴を理解しておくことが重要です。

  • シームレスな通信:RAMNはすべてのECU、センサー、デジタルモジュールを安全にコネクテッドし、中断のないデータ交換を保証します。
  • 耐環境性:RAMNは、主に自動車用グレードの部品(-40~150℃で動作可能)で構成されており、一般的な開発ボードでは対応できない物理的ストレスにも耐えることができます。
  • モジュール性と拡張性:RAMNのアーキテクチャは、従来のかさばる配線を合理化されたモジュール式ソリューションに置き換え、通信経路の短縮、シグナル品質の向上、全体的な信頼性の向上を実現します。
  • セキュリティ重視:高度な暗号化とセキュアなプロトコルにより、RAMNは、現代の自動車で高まるサイバーセキュリティの脅威からデータを保護します。

STM32プロトタイプ環境のセットアップ

必要なもの

  • STM32ボード:STM32L552ZE
  • 開発環境:STM32CubeProgrammer、STM32CubeIDEをインストールします。
  • 周辺ハードウェア:基本的なジャンパーワイヤー、ブレッドボード、TJA1050 CANバス・トランシーバー、CANable120R
  • ドキュメント:ペリフェラルの詳細なコンフィギュレーションについては、STM32のリファレンス・マニュアルとデータシートをお手元にご用意ください。

ハードウェアの設定

  1. ボードのセットアップ:STM32ボードをマウントし、追加のペリフェラル(CANトランシーバー・モジュールなど)を接続し、USB接続によって適切な電源が供給されるようにします。

    Figure 1. Board setup

    ピンアサイン:
    • FDCAN1_TX(PB9)からTJA1050 CANバス・トランシーバーのTXピンへ 
    • FDCAN1_RX(PB8)からTJA1050 CANバス・トランシーバーのTXピンへ 
    • TJA1050 CANバス・トランシーバーのCANHからCANableのCANHへ
    • TJA1050 CANバス・トランシーバーのCANLからCANableのCANLへ
    • すべての5VとGNDをそれぞれ接続
  2. ソフトウェアのインストール:CAN通信用のSTM32CubeIDEとSTM32CubeProgrammerをインストールします。

RAMNを複製するための手順

ステップ1: STM32CubeIDE

  • RAMN_CONFIG.H でターゲットECUを設定する   
    Figure 2. Configure target ECU
  • Main.cでボーレートとプリスケーラを正しく設定する
    Figure 3. Set correct baud rate and prescaler in Main.c
  • Project Cleanからビルドする。(ELFファイルを後で使用します)
    FIgure 4. Build by going to Project and Clean

ステップ2: STM32CubeProgrammer

  • 図のように接続して消去する
    Figure 5. Connect and erase
  • ステップ 1 で生成され、通常 xxxx/RAMN-develop\firmware\RAMNV1\Debug に保存されている .Elf ファイルを見つけて開く
  • Download(ダウンロード)」をクリックして、ハードウェアにフラッシュする
     
    Figure 6. Flash to hardware by clicking Download.
  • • STM32CubeProgrammerを切断する

ステップ3: Kali Linux

  • 正確なボーレートを設定し、cansniffer can0コマンドを入力
    Figure 7. Set exact baud rate and enter command cansniffer can0.
  • 上記コマンドを入力すると、RAMNの動作が確認できます
    Figure 8. RAMN is working
    (注:毎回ECUが変わった後でRESETボタンを押します)

シングルボード利用のメリットと制限事項

メリット

  • コスト効率:STM32ボード1枚で、RAMNのようなネットワークの理解とプロトタイピングを低コストで実現できます。
  • シンプル:セットアップが簡単で、すぐに組み立てられるので、初期段階の開発や実験に最適です。
  • 柔軟性:1つのボード上でノードを仮想化することで、さまざまな通信シナリオやネットワーク構成をテストするための適応性の高いプラットフォームを提供します。

制限事項

  • スケーラビリティ:ノードをシミュレートすることはできますが、このアプローチでは、実際のマルチボードRAMNシステムの分散処理と物理的な耐障害性を完全に再現することはできません。
  • 車載グレードの性能:STM32ボードは、フルスケールのRAMN実装に見られる車載グレードのコンポーネントと同等の環境耐性を完全に満たさない可能性があります。
  • CANバスの終端:シングルボードのセットアップでは、実際の車両で観察されるような完全なCAN/CAN-FDバスの挙動を正確に再現するには限界があります。

まとめ

単一のSTM32ボードを使用してRAMNを複製することは、複雑なハードウェア構成に全面的に投資することなく、高度な車載ネットワーキングのコンセプトワークに飛び込むための優れた方法です。このアプローチは、データルーティング、エラー管理、セキュアな通信に関する貴重な知識を提供するだけでなく、車載グレードの設計をさらに探求するための基礎を築きます。

コスト、オープンソース開発、実際のECUネットワークへの忠実度のバランスを取ることで、このSTM32ベースのプロトタイプは、理論的な設計と実用化とのギャップを埋めるのに役立ちます。高度なECUの開発を計画している場合でも、単に最新の車載ネットワークの内部構造を理解したい場合でも、このプロジェクトは良い出発点となります。

さらに、当プロジェクトは、STM32ボードが単なるPoC(概念実証)ツールではなく、CTF( キャプチャー・ザ・フラッグ)のようなダイナミックな条件変更を伴う検証の際にも力となる多目的プラットフォームであることを示しています。その安定した性能と信頼性は、革新的で魅力的なソリューションへの道を開きます。

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