自動運転車の新たな可能性を切り拓く量子コンピューティング

2024年4月15日
Ziv Chang
自動運転車の新たな可能性を切り拓く量子コンピューティング

自動車用バッテリー、ソフトウェア定義の車両(SDV)設計、車載接続システムの最適化に量子技術を応用して成功を収めたことを受けて、自動車メーカー、特にテスラは、先進運転支援システム(ADAS)への応用を目指しています。いわゆる量子AIの利点を活用することで、テスラなどは、将来的には完全自動運転(FSD)機能へ統合されることを期待しています。

ADASに関する概要

ADASとは、運転者の安全性を高め、運転体験を向上させる各種電子システムのことを指します。これらのシステムは、センサー、カメラ、レーダー、ライダーなどのさまざまな技術を使用して、リアルタイム情報と運転支援を提供します。車間距離を能動的に調整するアダプティブクルーズコントロール(ACC: Adaptive Cruise Control)、車線逸脱警告、車線維持支援などの機能があります。また、前方衝突警告、ブラインドスポット検知、歩行者検知、駐車支援など、他の車両や歩行者を保護するための機能も備えています。

これらすべての機能を実装するには、センサーとAIの2つの重要なコンポーネントが必要です。ADAS技術を搭載した車両は、車内や周辺環境など、さまざまな側面に関する包括的かつ完全なデータを提供するために、多くのセンサーを必要とします。その後、オンボードAIまたはクラウドベースのAIによってスマートな意思決定が容易になり、自律走行または無人運転機能が可能になります。

量子コンピューティングによるADASの強化

従来の車載センサーと比較して「量子のもつれ」や「量子の重ね合わせ」などの量子力学の特性を利用する量子センサーは、自動運転車向けにも大きな可能性をもたらします。これらの最先端のセンサーはまだ初期段階ですが、次のような特徴によってADASをより堅牢で信頼性の高いものにする可能性があります。

  • 知覚能力の向上:量子センサーをADASに統合することで、車両の知覚能力を高めることができます。量子センサーの高感度と高精度により、道路上の障害物や他の車両や歩行者の位置と動きを識別する際に、周辺環境のわずかな変化を検出することができ、システムがより早い段階で潜在的なリスクに気づくことができるようになります。
  • 正確な位置決めとナビゲーション:量子センサーの高精度測定能力を活用することで、より正確な位置決めとナビゲーション機能を実現できます。これにより、ADASの車両位置決め、道路地図の更新、自動運転経路計画を改善し、車両がより正確に運転し、複雑な交通状況にも対応できるようになります。
  • 誤警告や誤判断の減少:量子センサーの高感度と低ノイズ特性は、ADASの誤警報や誤判断を減らすのに役立ちます。量子センサーが提供する精密なデータを使用することで、システムは真に危険な状況と他の無害な環境変化をより適切に区別でき、システムの信頼性とパフォーマンスを向上させることができます。
  • 自己学習と最適化の強化:量子センサーとADASのインテリジェントな学習および最適化機能を組み合わせることで、より高いレベルの自己学習と最適化を実現できます。システムは、量子センサーから得られたデータに基づいて、その動作と意思決定を改善し、それによってパフォーマンスと適応性を継続的に向上させることができます。

ADASは、1チップあたり254兆回の演算処理能力(255 TOPS)を提供できるNVIDIAのOrin Xコンピューティングチップなど、AI機能に多大な計算能力を必要とします。特にテスラのTesla Model 3 Highlandは、さらに高い計算能力を提供し、演算処理能力は720 TOPSに達します。このような性能が向上し、より多くの計算能力を提供するためのCPUとGPUの機能が強化する中、NPU(ニューラルプロセッシングユニット)も最近急速に普及し始めています。さらに、QPU(量子プロセッシングユニット)は、車載用により高い計算能力を約束する将来の主役と考えられています。

車内で高い計算能力を提供することに加えて、量子コンピューターはクラウド上において、さらに大きくて優れてより安定した計算能力を提供できます。IBMが昨年、欧州で初めての量子データセンターを立ち上げたのも驚くことではありません。

安全とセキュリティのリスク

量子コンピューティング技術とAIが融合し、自動運転車に広く適用されるようになると、量子計算の中断や量子コンピューターの操作への干渉に関する懸念が生じます。これは、人命へのリスクはもちろんのこと、安全性やセキュリティの問題につながる可能性があります。

量子コンピューターにおける最大のリスクは、量子状態の崩れ(量子デコヒーレンス)です。これは、量子コンピューターの高い計算能力の基本となる量子ビットが、外部からの影響で乱されてしまう状況を指します。量子ビットが乱される量子デコヒーレンスの要因として、以下のようなものが挙げられます。

  • 環境との相互作用による量子デコヒーレンス:熱量の揺らぎ、電磁場、その他の形態のノイズなどの環境との相互作用は、量子デコヒーレンスにつながる可能性があります。これは通常、量子システムがその周囲と絡み合うことで発生し、量子コヒーレンスを引き起こします。
  • 散乱および衝突プロセス:散乱事象や衝突などの他の粒子との相互作用は、位相シフトや量子状態の変化を引き起こし、量子デコヒーレンスにつながる可能性があります。
  • 不完全な制御と測定:量子システムの制御や測定の不正確さは、エラーを引き起こし、量子コヒーレンスを乱す可能性があります。これには、ゲート操作のエラー、不完全な測定、実験装置の限界などが含まれます。
  • 散逸による量子デコヒーレンス:熱リザーバーとの結合など、エネルギー散逸プロセスも、量子デコヒーレンスにつながる可能性があります。これにより、量子情報が環境に失われ、時間の経過とともに量子コヒーレンスを維持することが困難になります。
  • 環境の変動:温度、圧力、電磁場などの環境特性の変動は、量子システムを乱し、量子デコヒーレンスを引き起こす可能性があります。
  • 外部ソースからの量子干渉:迷走電磁場や背景放射線などの外部干渉源は、量子システム展開のコヒーレンスを妨げる可能性があります。
  • 幾何学的位相とトポロジー効果:通常、幾何学的位相とトポロジー効果は、特定のタイプの量子デコヒーレンス機構に対する安定保持の役割を果たしていますが、特定の幾何学的位相は一部の摂動(運動などの厳密な解が得られる系に対し、小さい攪乱 から生じたずれ)に対して影響を受けやすい場合もあります。
  • 量子のもつれの喪失:他のシステムとの量子のもつれは、量子システムをデコヒーレンス(量子状態の崩れ)から保護することができます。しかし、環境との相互作用によるエンタングルメント(量子のもつれ)の喪失や劣化により、量子システムのコヒーレンス崩壊につながる可能性があります。

これら量子デコヒーレンスの要因を理解し、軽減させることは、今後、特にADASにおける量子技術の開発と実用化には不可欠となります。

結論

量子技術がもたらす膨大な計算能力と正確な環境モニタリングの機能は、ADAS操作に必要なリソースを提供します。その結果、量子技術のADASへ応用は、今後、技術面で主流になるだけでなく、自動車業界全体にも大きな経済的影響をもたらすことが期待されています。調査機関「McKinsey」のレポートによると、この革新的な技術は2030年までに自動車産業に20億ドルから30億ドルの収益をもたらす可能性があります。

自動車業界が量子技術の導入に注力していく一方で、量子技術に伴うリスクにも注意を怠らず、車両のセキュリティと安全性を確保するための緩和戦略を実施することも不可欠といえるでしょう。

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